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札幌高等裁判所 昭和55年(ラ)34号 決定

抗告人

ロマンス製菓株式会社

抗告人

浜塚製菓株式会社

右両名代理人

太田三夫

相手方

株式会社ナシオ

主文

本件抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  本件資料によれば次の事実が疎明される。

(一)  北誉製菓株式会社(以下北誉という)は、昭和四七年四月から、別図(一)及び(二)表示のステンレス製牛乳缶型容器(以下本件容器という)にバター飴を入れて、ラベル、包装箱を使用し、「北海道名産バター飴」の名称を付したものを北誉の商品(上記容器、包装等を使用してバター飴を入れた北誉の商品を以下単に北誉の商品という。)として販売し、以来昭和五一年三月頃までの間にその販売数量は計三七万余缶、卸総額計二億三三八〇万余円に達し、それは北誉の中心的商品となつていた。そして北誉の商品は、昭和五〇年三月優良道産品推奨協議会から優良道産品として推奨を受けたほか、雑誌等に北海道の代表的土産品として写真付で掲載されたり、北海道内のほとんどの土産品店で販売されるようになつていた。

(二)  そのため、債権者北誉、債務者北海道観光名産株式会社(以下北海道観光という)外一名間の札幌地方裁判所昭和五〇年(ヨ)第二七九号不正競争行為差止仮処分事件において、同裁判所は、北誉の商品につき債権者北誉の右仮処分債務者らに対する差止請求を認め、更に同裁判所同年(モ)第九二〇号同仮処分異議事件(異議申立人は北海道観光)において、同裁判所は、前記(一)の事実を認定したうえで、同事実に基づき、北誉の商品は容器としてステンレス製牛乳缶型を使用している特徴を有していたため少くとも問屋段階では、北誉の商品として広く認識されていたことが認められるし、一般観光客、小売店層においても北誉の商品が特定の出所より出たものであるとの認識はかなりの程度まで広まつていたものと推認できるから、北誉の商品は少くとも北海道地方では周知性を有する商品表示を有していた旨の判断をし、前記仮処分決定を認可した。

そして、その後、右仮処分事件の本案訴訟(同裁判所昭和五〇年(ワ)第五七九号事件ほか)において、前記当事者(原告北誉、被告北海道観光)間に、右北海道観光は現有している容器以外にステンレス製牛乳缶型容器によるバター飴の販売をしないこと、同北海道観光に対し北誉が和解金一〇〇万円を支払うことを骨子とする裁判上の和解が札幌地方裁判所で成立した。

(三)  その後、北誉は、本件容器を使用した北誉の商品の販売をしてきたが、昭和五四年七月一七日、札幌地方裁判所において、北誉を破産者とする旨の決定(同裁判所昭和五四年(ワ)第七号破産申立事件)がなされた。そこで、従前から北誉に対しバター飴を納入してきた本件抗告人ロマンス製菓株式会社(以下抗告人ロマンス製菓という)及び同年五月過ぎ頃から北誉に対しバター飴を納入し始めた本件抗告人浜塚製菓株式会社(以下抗告人浜塚製菓という)は、右破産会社北誉の破産管財人須田久節に対し、「北誉の保有していた『ステンレス製集乳缶型バター飴缶』の意匠」を譲受けたい旨申出をし、昭和五四年七月二七日、札幌地方裁判所の許可を得て、抗告人両名は各二五〇万円計五〇〇万円の代金でこれを譲受けた。なお、抗告人ロマンス製菓は、同日、右破産管財人から、前記「意匠」のほか七四七万円相当の製品、資材なども買受けている。

(1) 抗告人ロマンス製菓

販売年月     販売数量        販売金額

昭和五四年七月   五、八三二缶   二、七五一、八四〇円

同年八月     一一、一八四缶   五、〇三八、二〇〇円

同年九月      六、一六八缶   二、六四一、〇八〇円

同年一〇月     三、五七六缶   一、四八九、八〇〇円

(2) 抗告人浜塚製菓

販売年月     販売数量        販売金額

昭和五四年七月   二、〇四〇缶     九四九、三八〇円

同年八月     一八、九七二缶  一二、二五五、〇〇〇円

同年九月     二六、六三八缶  一六、五〇三、二〇〇円

同年一〇月     五、七七七缶   二、九〇六、〇四一円

同年一一月     五、四九四缶   一、九二八、四四〇円

同年一一月       六〇六缶     三九四、六〇〇円

そして、抗告人両名は、同年同月、連名で、前記「意匠権」を北誉から承継した旨の広告を業界紙及び新聞紙上に掲載するとともに、北誉の取引先にその旨を連絡し、かつ同年八月右広告とほぼ同趣旨の記事が業界紙に掲載された。

(四)  抗告人両名は、右譲渡を受けた昭和五四年七月から、本件容器にバター飴を入れ、ラベル、包装箱を使用し「北海道名産バター飴」の名称を付した商品の販売を開始し、同年一〇月までの間に左記数量、金額の商品を卸販売した。

(五)  ところが、昭和五四年一二月初め頃から、相手方が別図(三)及び(四)表示のステンレス製容器(以下相手方容器という)にバター飴を入れ、ラベル、包装箱を使用し「北海道銘菓バター飴」の名称を付した商品を主に道東及び道央方面に販売するに至つた。

そのため、抗告人両名の取引先から同抗告人らに対し、北誉から権利を譲受けたというのは嘘なのかなどの問合わせや苦情が寄せられている。

(六)  牛乳缶型菓子容器の形状は、昭和三〇年及び昭和三一年に、旭川市の水道義雄なる者が意匠権者となり意匠登録されていたが、すでに意匠権の存続期間である一五年を経過しているし、北誉も本件抗告人両名及び相手方も、いずれも牛乳缶型菓子容器の形状に関する意匠の登録をしてはいない。

2  ところで、抗告人両名は、不正競争防止法一条一項一号に基づき、相手方が、相手方容器をバター飴の容器として使用すること及び同容器を使用したバター飴製品の製造、販売、頒布をすることの差止等を求めているところ、同条同項同号による差止めは、本邦内に広く認識されている、すなわち周知の他人の商品表示と同一もしくは類似のものを使用したり、これを使用した商品を取扱うことによつて他人の商品と混同を生じさせるいわゆる商品の主体を混同させる行為によつて営業上の利益を害されるおそれのある者が、右混同行為を阻止するために求めうるのであるから、右の差止めが認められるためには、まず右差止申立人の商品表示であることが本邦内に広く認識され、いわゆる周知性を有していることを必要とする。そして、右の周知性は、全国に広く認識されることまでも要するものではなく、一地方においてその取引者又は需要者の間に広く認識されることで足りるものと解すべきである。

そこで、本件において、本件容器が抗告人両名の商品表示としての周知性を有しているか否かにつき検討するに(商品主体の混同行為差止めを求める本件仮処分においては、本件容器が北誉の商品表示として周知性を有していたか否か、更に抗告人両名が北誉の破産管財人から「北誉の保有していた『ステンレス製集乳缶型バター飴缶』の意匠」又は本件容器を使用して北誉の商品を製造販売するという事実状態若しくはグッドウイルなるものを譲受けたか否かということはいずれも意味をもたないというべく、本件容器が抗告人両名の商品として周知性を取得しているか否かが問題なのである)、前説示の通り、抗告人両名は、本件容器が抗告人両名の商品であることにつき、新聞広告をしたり、北誉の元の取引先に連絡をとるなどして本件容器を使用した商品売込みのための営業上の努力をし、取引先である問屋段階ではある程度の認識を得つつあることはうかがわれるものの、抗告人両名が本件容器を使用した商品販売を開始してからその期間はそれほど長期に亘つているとはいい難いのであり、本件全資料によつても、未だ、少くとも北海道地方においてもその取引先である問屋、小売店又は一般観光客のいずれにも、本件容器が抗告人両名の商品であると広く認識されるに至つているとの疎明があつたということはできない。

そして、他に抗告人両名の被保全権利を認めるに足りる疎明はなく、この点について保証をもつて疎明に代えることは相当でないから、抗告人両名の本件仮処分申請は、その余の点につき検討を加えるまでもなくいずれも失当としてこれを却下すべきものである。

三よつて、抗告人両名の仮処分申請を却下した原判決し結局相当であり、本件抗告はいずれも理由がないから、民事訴訟法四一四条、三八四条一項によりこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき同法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり決定する。

(安達昌彦 澁川満 大藤敏)

抗告の趣旨〈省略〉

仮処分決定〈省略〉

別図(一)〜(四)〈省略〉

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